kei 「蜘蛛の糸Ⅱ」

2023年3月退職 後の生と死を「絵と言葉」で考えたい…4月からは「画家」か?「肩書を持たないただの人間」として生活していこうと考えています。

「孤独なオートバイ」 吉岡実

私は若い頃 吉岡実の詩が好きでよく読んでいました

今 再びこの詩を読み返すと「落ち着きのないオートバイの動性」よりも

なぜか「現代性」を感じます まるで現代の若者の心理のような…

 

 

孤独なオートバイ

海岸の砂地より少し高い平面を
廻っている
円形のコンクリートの床?
それは原色のヒトデのように
夏へ向かう
青年の赤いマフラー
同心円が猛然と回転する
妊婦の大量発生の
春の終わりへの感情移入!
よごれた個人の下着が見える
やがて夕暮れだ
機械の棒で操作される魂の中心を
一台のオートバイが走っている
一サイクルのスピードで
一サイクルのなかに
試みられる
円の癒着性!
孤独なオートバイの裸体
合成塗料のなまめかしい匂い
円の迷路へ
なだれこむ黄色いアネモネ
高鳴る水
〈くださいアスピリンを二錠〉
走る車輪
筒を抜ける鳥
まず換気弁がぬれる
それから処女性のシリンダーが
潜在しているのがわかる?
機械がつくるさびしい関係を告知せよ
走る車輪の下のまだ青いバナナ
ささやくエンジンの愛
あるときは見える
検眼パネル
しゃべるしゃべるガソリンの口
しゃべらない沈黙の電気
走る気体
モーターの内部で
やわらかい真紅の絹はグラスをつつむ
白いヘルメットをかぶり
とてもたのしい衝突?
細いけむりが出る
精霊たちの裂かれるパンツ
そのはるか下を
四つん這いの父母の像
つるつるの頭の上で
読み上げる
孔の数
ベビーの死亡 出生率
賃貸貸借表
宗教の方眼紙の彼方へ
ばらまかれるレンゲの花
そして胆汁
抱きあつた恋人たちは立ち去り
気まぐれな猫がはらみ
あるものが来る
あるものの他のものが見え
記号や畝のように
スタンドの青いサボテンのとげの絵
さかさまのサソリの鋏
ゆっくりひらき
きられる矩形の咽喉
すでにない前方から泡がこぼれる
ガラガラくずれながら
つまれてゆくビールの罐
全部叩かれる
男女の悲鳴
水車に沿って
マンドリンの腹へ沿って
オートバイが走っている闇へ
次はマリンバや太鼓
まわる車輪へ白髪が発生し
ゴムのタイヤの象皮性を見せよ
ようするに破壊でもなければ
再構成でもない
空間を予想する
雨にぬれるオートバイ
グッドバイ
野獣の中の締められたバルブ
少年の腰をだきたくなる
少女の脱脂綿にふれたくなる
孤独なオートバイのサドル
試みられる精神・金属の羞恥度
時間とはどんな白線?
同心円の反復から
停止する半円の透明度
出ていかないカニ
海岸へ誰も近づくな!
走る心で
うしろへ戻って
ある日の暁まで廻るハンドルへ
美しい血が循環する
寒暖計
皮下溢血!
超スピードで出てゆくカラス
月光いつぱいにいま入ってくるイカ
女のオナニズムの
欲望のモーターの内部で
ホット・ケーキがつぶれるんだ
葬儀夫人の
わけのわからぬ連禱唱
テンテンテンテン・・・・・・・・・
孤独なオートバイが走る

            (1966年)