kei 「蜘蛛の糸Ⅱ」

2023年3月退職 後の生と死を「絵と言葉」で考えたい…4月からは「画家」か?「肩書を持たないただの人間」として生活していこうと考えています。

「イカロス」Ⅱ


ヴァーミリオンは病院のラボで父親の目を盗んで血液検査を行った。
彼女の元に送られたブルーの血液は、2人以外誰にも持たないと思われる抗原があり、それが検査者の目を潜り抜けて0型と判定されていることがわかった。そしてなにより自分たち3人から同様の遺伝子異常が見つかり、人間=ホモ・サピエンスとは異なる種であることを知り驚いた。
 
年の瀬のある日グリーンが提案した。「3人で会って話がしたい。」
ブルーは「足がつくから。」と反対したが、「ゲームとか好きな遊びの話をすりゃいい。」と返事をよこしてきた。
そうしてコミュニケーションソフトを用いて3人はTV電話を試みた。
 
Hello. 会話は英語で始まった。グリーンは眼鏡をかけていてすでに学者の風格を備えていた。ヴァーミリオンは名前の通りの赤毛、そして透明に輝く青い目を持っていたが、ブルーが何より驚いたのは、前頭葉の異常発達のため「前額」つまり「おでこ」が張っているという見当が外れたことだった。彼女の頭は細身の身体に似合ったものだった。
 
グリーンは言った「今、何に夢中かお互い言い合おうか。まず僕だけど、社長になるのが夢なんだ。でも、社長になったら一番偉くなっちゃって、黒い椅子にふんぞり返るだけになる。そりゃいただけないから会社はだれかに任せて庭師とか清掃員をやろうかな。って考えてる。君たちはどう?」

「私はお人形ごっこに今は夢中。それと顕微鏡でいろんな綺麗なものを見るのが好き。」
ヴァーミリオンはブルーにむかって少し恥ずかし気な笑顔を送りながら言った。

ブルーはグリーンの眼鏡を時折、そしてヴァーミリオンの目を見ながら答えた。

「今はコンピューターでいろんなゲームをしてるんだけど、ボクのコンピューターが遅くてついていけないみたいなんだ。だからもっとコンピューターが早くなる方法とか探したいかな。」
その後、子どもらしい他愛のない話を一通りし、また3年後の今日、こうして会って話そう。ということになった。
 
その間グリーンは知人の科学者を発明者とし、彼を社長に仕立て上げ新しい素材を用いた「高性能バッテリー」分野の会社を設立し、それを電気自動車に搭載して10倍の走行距離を成し遂げ、巨額の富を築いていた。
ヴァーミリオンは大脳や細胞生物学分野で誰も発見していないことを多く発見しながらもそれを隠し、同時に同類の人間を集めるための試薬を作り上げていた。
ブルーは3000万量子ビットの光量子コンピューターの設計に成功し、全世界の機関に痕跡を留めずハッキングができるような技術を持つに至った。


実質的にグリーンが経営する「Color's コーポレーション」は3世代は先進している蓄電池によって世界で屈指の巨大企業に成長し、IT産業や発電、造船、病院の設立など経営を多角化していった。(その頃ガソリン車はその大半が世界から消え去っていた。)

ブルーが小学校5年を迎えた頃には光量子コンピューターを建設する財力が十分に備わっており、3人はどこにそれを建設するかを話し合った。意見は偶然か、当然のようにか一致した。
「赤道付近に位置するアジア圏の無人島を買い上げ、そこに建設する。」というアイディアだった。現在は水が出ない。という理由によって放置されているが、精密に深く掘削すれば豊富な地下水が湧き出ること。そして何より地下350m付近の石灰石の岩盤の中に巨大な空洞があることを知っていたからだった。
 
工事は開始され無人島の地下深く秘密裏に、1年を待たずしてコンピューターは完成した。それは世界で当時最速のスーパーコンピューターよりも数兆倍の速度で計算を行い、様々な国の人工衛星の画像やデータも併せてハッキングすることで、世界の各地域の気象のみならず、産業、軍事、人々の動きまで瞬時に計算することができた。そして明日以降の世界がどうなるかも概ね予測することができ、いつどの国のどの場所で航空機が墜落するか、列車事故が起こるかまでパーセンテージによって予測することができた。そのためそれは3人から「prophet=プロフェット」(予言者)と呼ばれるようになった。

コンピューター建設と同じころ大規模な総合病院をヴァーミリオンが住む東側の大陸に立ち上げ、そこを彼女に任せた。

ブルーが小学校を卒業する頃には、Color's コーポレーションの系列の企業・施設は「最も就職したい企業・施設」のベスト10に選ばれ、対外的にも貧しい国々に物質的・資金的援助を積極的に行うため、篤い信頼を得るようになっていた。
 
グリーンは過剰な金額を費やし、病院に採取されていた自らの血の回収とそれに関するデータを消去するのに成功し、このような背景を受けてヴァーミリオンの「同類探し」が始まった。
表向きはWHOへの協力の一環として「稀少血液」を見つけ出し、数十万人、数百万人に1人と言われる血液をもつ人々の命を救うのが目的であり、実際にそのような人道的活動も行ったが、実質的には自分達と同様、ホモ・サピエンスではない者を見つけることが目的だった。
ヴァーミリオンの病院は「稀少血液保有者を救う」をスローガンとして、世界中から血液を買い集めた。その金額は破格で、3人子がいれば大画面のTVが買えたほどだった。

3か月を待たずして二十億人の血液が集まったが、CMや新聞掲載、その露骨な血液への執着は「ヴァンパイア」のようだと人々から揶揄された。