kei 「蜘蛛の糸Ⅱ」

2023年3月退職 後の生と死を「絵と言葉」で考えたい…4月からは「画家」か?「肩書を持たないただの人間」として生活していこうと考えています。

「ラピスラズリ」

ラピスラズリは貴石に属し 沖縄の女性はこの石を魔除けとして手首に着けている人もいる

この間病院に行き先生と面会した「絵描いているかい?」と時々言われるので たまに描いた絵を持って行ったりする 先生は「お?青い絵か。フェルメールブルーってやつだな?」と言った 私は「フェルメールブルーなんてよくご存じですね。お好きなんですか?」と答えた それから「フェルメールブルーというのはラピスラズリ石を細かく砕いて油で練った絵の具で『ウルトラマリンブルー』と呼ばれ 当時は金と同じ重さで取引されていたんですよ」……と話していたら1時間かかってしまいますからこの辺にしましょうか。と互いに笑いながら診察を終えることにした。ま その後先生はフェルメールの画集を持ってきて見せてくれたりしたけど…そちらは勤務中だってのに。

 

ラピスラズリをふんだんに使った1600年代 バロック派に属するオランダ画家

ヨハネス=フェルメールの話をしようか… もっとも有名な絵はコレ?

「真珠の耳飾りの女」1665年  本物を見たが小さい絵の部類だった

他にも人物画は数枚描いているが少ない そしてその中でも「フェルメール自身が本当に描きたくて描いた」と強く感じさせる絵として特別な気がする フェルメールブルーのターバン そして妻から拝借したであろう真珠の耳飾り 闇の中で輝く瞳 濡れた唇 そして 娘の心の清廉さを際立たせるためか 暗闇との対比であろう白すぎる襟

原石

砕くとこうなる  …400年前「美しい青」は至極貴重だった 今も高いが

寡作であったためか 100年以上も画壇から忘れ去られていたフェルメールだが デルフトの画家組合長を2回務めるなど 当時は高い評価を受けた画家だった

だから 注文を受けて このように肖像画的な室内画を多数描いた

「絵画芸術」というこの作品をフェルメール第1と評したのはサルバドール=ダリあたりだろう 見事な絵だ。 そしてフェルメール自身の背中も描かれている特殊な作品

上下2枚の作品には共通点がある

それは「同じ部屋を使って描いている事」そして一点透視図法としては「完璧」である

それもそのはずで 当時「カメラオブスクーラ(ル)」というピンポイントカメラが発明されていて ピンホールカメラの原理で正しく一点透視として捉えられ それは摺りガラスに逆様に写った おそらくフェルメールもこの機械を使っただろうと思う

卓越した技量を持ちながら42歳で命を閉じたこの画家

翻って「真珠の耳飾りの女」を見てみる

これに「カメラオブスクーラ」は使っていないだろう 売るために描いた感さえしない

「真珠の耳飾りの女」というこの絵に纏わる同名の映画を観たことがある

そこではモデルの女は下女だが助手のような仕事もし ラピスラズリを乳鉢で砕いたりしていた 寡黙なフェルメールは彼女に淡い恋心(と言っても妻がいるのでプラトニックだっただろう)と愛着を抱いており 若い助手である彼女も画家を慕っていた

映画のラストをここで話すのは無粋だろうし この話が本当かどうかもわからない

ただ映画の作り手に そんなイメージを持たせてしまう魅力がこの絵にはある

乳鉢で 一心にラピスラズリを砕いていた娘の顔を思い出す

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